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2021.09.16

うねりの泉編集部

「西日本新聞me」アプリの開発裏側! 「メディア」を超える地方紙DXとは?(後編)

「西日本新聞me」アプリの開発裏側! 「メディア」を超える地方紙DXとは?(後編)

スマートフォンの急速な普及を背景に、人々の生活はデジタルとリアルの融合が進み、企業にとってはデジタル改革が急務になっています。

そうした中、「デジタル時代にも変わらない使命を果たすため」、西日本新聞様は今年4月に、ニュースアプリ「西日本新聞me」をリリースしました。

「西日本新聞me」では、西日本新聞様がこれまで報道の世界で培ってきたノウハウが、デジタルによって丁寧にアップデートされていますが、それを可能にしたのは事業面だけではなく、「覚悟を持った」組織の変化もまた、大きな要因であったようです。

前編では、アプリ開発に至った経緯やパートナーシップへの考え方などについてお話いただきましたが、後編ではより深く、社内の変化やアプリへのこだわりについて、そして今後目指す「西日本新聞像」についても語っていただきました。

引き続き、ご協力いただいたのは西日本新聞社 経営企画局の井関隆行様。聞き手はunerry代表内山です。

※取材は、2021年6月1日に行われました。

「大事なことは大きく」。新聞紙の良さとノウハウをアプリにも

unerry内山:もうすぐローンチから2ヶ月です。データを拝見すると、お客様の「継続率」は非常に良い結果になっています。実際、立ち上げてからの手応え感はいかがでしょうか?

井関様:そうですね、社内で感じる手応えと社外では全然違っています。

社外では、まだまだ。福岡の主要な交通手段である西鉄バスのなかで「西日本新聞me」を開いている人と、まだそんなに遭遇できていないので。「『西日本新聞me』いいよね!」って自分と関係ないところで言われている感がなくて、そのためのプロモーションがいよいよ始まるところです。

社内については、デジタルの実務を直接担当する立場にはない社員の皆さんからの参考情報や意見、ダメ出しなどが、とても増えました。社内は間違いなく、「西日本新聞me」を投入したことで意識が変わりつつあるというか、自分ごとになっているという手応えを感じます。それが最初にあるべき変化だと思ってきたので、嬉しく思っています。

unerry内山:アプリの中で特に想いがあるものはありますか?

井関様:絞りきれないところではあるのですが、まずはトップの一面。まさか、新聞レイアウトを参考にしたデザインをアプリに採用することになろうとは想像もしていなかったのですが、やってみると、すごかった。

unerry内山:よかったですよね。

アプリ画面

井関様:「大事なことは大きく」というシンプルなキャッチコピーで、今後もプロモーションしていこうと思っているのですが、新聞を読まない人にとっても、大事なことは一面に載っているという新聞紙のイメージはあるじゃないですか。

それをアプリの縦スクロール画面で再現するのはチャレンジでしたが、結果、データログからも、アプリ一面をななめ読みする習慣が生まれつつある、ということが分かってきました。新聞紙という形態は敬遠されていたとしても、大事なことが「どん」っと大きく掲載されている分かりやすさは、嫌われているわけではなかったんだなと。

今まで紙面をレイアウトしていた職人たる人が、アプリ画面をレイアウトする部署に異動するなど、紙で培ったノウハウを、「西日本新聞me」に変換する挑戦が進んでいます。見出しのフォント、大きさ、画像の位置、リード文の位置、小見出しなど、組み合わせの掛け算では何万通りもある世界で、いろんなことを試してくれています。

社内的にもパワーを集中させている箇所ですが、それがユーザーにも伝わっているのは、アプリの顔になる部分だからこそですね。

ちなみに「それをやろう」ってなったのは、unerryさんと一緒にコンセプトを練っている中で、でしたね。

unerry内山:一緒にやりましたね!

モノづくりの前段階にあった、本道に向き合うための時間

井関様:「西日本新聞me」で体現しようとしているコンセプトを、ちゃんと言葉にするというところから一緒に参加してもらって…。

開発前に、unerryのアプリ開発チーフエンジニアが夜間の新聞制作工程を視察しに来てくれたのも、強烈でした。システムのWEB開発ベンダーが、夜の現場を見た上でなにかを考えるって今までなかったし、普通はないですよね。

で、そこから見いだされたのが「本道を行こう」っていう話でしたよね。

トリッキーな企画アプリではなくて、本道をおさえて、手間をかけているということがちゃんと伝わるデザインにしようと、「西日本新聞me」の顔になるトップページが生まれた。それは、モノづくりの前段階に、unerryさんや開発チームと共に議論した時間があったからこそだと思っています。

unerry内山:今後、「西日本新聞me」で目指していきたいことはどんな事ですか?

井関様:ちょっと概念的な話になりますが…。

「西日本新聞」って聞いたときに福岡の人が思い浮かべるのは、新聞紙か、WEBサイト、もしくは「西日本新聞me」を使っている人はアプリだと思うのですが、そうじゃないものを連想されたいんです。

例えば、自分のまわりを取り巻いていて、人生を豊かにする体験をいろんなときに提供してくれる、あの頼りがいのある、気の利いた「存在」だよねって。

unerry内山:日経新聞も紙や電子版そのもの、というより、「経済といえば日経」というブランドがありますよね。「西日本新聞me」の場合は、「福岡」そのものなのかも。「福岡といえば、西日本新聞」というような、福岡を体現している存在、って感じかもしれないですね。

さて、プロダクトに関わって1年ちょっと。今だから言える、大変だったことはありますか?

「ここが僕の人生の本番」、会社の本気度が示された最高のチームでの仕事

西日本新聞社 井関隆行様 

井関様:何が大変だったか、というと、実体としての形がまだ無いものに対して、チームとして団結するのが大変でした。

新聞社はとても即物的な業態で、一日一日、印刷された新聞を発行し続けるために全社員が仕事をしています。日頃、手で触れられるモノづくりをしているメンバーと、それを支えているメンバーが、物理的にも触れない、出来上がってもない、概念的なものに向かって一致団結するためのチームづくりは、なかなか大変でしたね。

unerry内山:しかし、「チーム力」という点では大成功ではないでしょうか?我々から見て、ここまでまとまっているチームは珍しいと思います。

井関様:最終的に、チーム作りをうまく出来たとするなら、社の看板ともいえる記者陣を投入するという経営判断があったこと、これには救われましたね。

「まさかこの人が!?」という人がデジタルに行くのって、本人も驚いたと思いますし、経営の本気度が示された人事。とても強烈でした。

だからこそ、僕自身、「これがラストチャンスだ」って思ったんです。

多分、自分がこの事業に関わる中でも、この先の会社人生においても、これ以上に恵まれた状況は巡って来ないって思いました。「死ぬなら今だ、ここが本番だ」って。

人間って、なんとなく、まだ長い人生の先に本番があるような気持ちで生きてしまいがちだと思うんです。今回うまくいかなくても、次になんとかなるか、みたいに。

「ここが僕の人生の本番」

そんな風に没頭できたのは、素晴らしいメンバーをアサインしてくれた経営判断があったからだと思います。有難い仲間に恵まれました。

unerry内山:「西日本新聞me」の、本当の成功っていう意味では、まだまだこれからですが、ご一緒する中で、井関さんが腹をくくって、ここまでやってきたという本気度が伝わってきました。

井関さんを中心としたみなさまとの取り組みには、「これが勝負時だ」という覚悟が経営陣の方々含めてあった。僕たちにとっても、失敗例は絶対に作れませんでした。

井関様:デジタルって、新聞業界においては長らく「おまけ」だったんですよね。新聞購読の付随サービスみたいな。

全国紙が本格的にデジタル化に動き始めて、西日本新聞も地方紙の中では、早く動き出したのですが、そこで、デジタルはもう「おまけ」ではなく、本業そのものであり、基幹サービスである、というところに位置づけられてきました。10年前とは、全く違う状況ですよね。

「西日本新聞me」を福岡の「常識」にするために必要な、新しい視点とは

unerry内山:最後に「西日本新聞me」に込めた想いと、unerryに対してメッセージをお願いします!

井関様:「西日本新聞me」を福岡の人にとっての「常識」にしていきたいです。

それは、半端ない道のりだと思っています。「常識」ってことは スマホを立ちあげたら、当然見るものにならないといけないし、災害とか豪雨とか、コロナもそうですが、社会的になにか大きい、不安になるような状況に市民がおかれたときに、真っ先に開かれる存在にならないといけない。

言うは易し、ですが、本当にそうなるのは、ものすごく難しい。人生をかけてトライする甲斐があることだと思います。

福岡人の「常識」になるために、unerryの発想とかテクノロジーとか、特にこのデジタル世界を捉える新しい視点をお借りしたいと思っています。

「取材したものを読者に届ける」。このシンプルで大事な役割を研ぎ澄ましていく垂直的な発想に、横の、水平な広がりをもって福岡や九州エリアを見晴らす視点を掛け算する、その発想を持ち込んでもらいたい。

そこがないと、形は変えたけど、「新聞」というカテゴリにとどまってしまうんですよね、多分。「福岡の常識」っていうところまでに行くには、「紙でもアプリでも、どっちでもいいけど、つまり、これは新聞でしょ?」っていうところから、別の存在になる必要があって、そのためには、水平の広がりをもって、このデジタルの世の中を捉え直す必要がある。

一言でいうとunerryさんには、プラットフォームとして世界を捉える思想、実装のためのテクノロジーをもって支えていただきたいと思っています。

unerry代表 内山

unerry内山:ありがとうございます。

福岡の、いろんな場所で「西日本新聞体験」が生まれるような、これまでのメディアの枠を超えていくお手伝いができるよう、アプリ以外にも様々な手法での横展開、水平でのご提案を頑張りたいと思います。

井関様:西日本新聞とunerryだからこそ、福岡上空に浮かべられたクラウド、社会の共通リソースのようなものがあって、自分たち自身では「西日本新聞me」っていう1つの出力の形で凝縮してユーザーに届けるけれど、その共通リソースを使ってサービスを作っていくのは自分たちだけじゃないくていいんです。

地域の別の会社が、このリソースを使って福岡を良くする体験を作ってくれるなら、そこでも活用してもらえる、そういう広がりをもったレイヤーを福岡に実装していきたいんです。その視点を忘れたくないなと思っています。

井関様、大変貴重なお話、ありがとうございました。

[取材日] 2021年6月1日 ※内容は取材当時のものです。

※撮影時のみ、マスクをはずしています。インタビューは感染対策に十分配慮したうえで行われました。

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