この記事では、近年マーケティング分野でも活用が注目されるオルタナティブデータの概要やデータの種類について解説します。
トラディショナルデータとの違いや、オルタナティブデータの活用事例も合わせて紹介いたしますので、ぜひ自社のマーケティングやデータ活用の際にご参照ください。
INDEX
オルタナティブデータとは
出典:オルタナティブデータFACTBOOK(一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会)
オルタナティブデータとは、主に金融領域において投資判断のために使われてきた伝統的なデータ(トラディショナルデータ:決算開示、公的統計等の一般的な公開データ)と区別するための用語です。
POSデータやクレジットカードデータ、位置情報、気象情報、衛生画像、経済ニュース、SNS投稿など、新たに活用可能となった“代替的な”データ群を総称します。非伝統的データ、高頻度データとも呼ばれています。
近年は、機械学習、自然言語処理、コンピュータ性能などの技術向上を背景に多くの分野で特色あるデータが収集可能になったことで、金融機関や投資家だけでなく、マーケティングなどさまざまな分野でオルタナティブデータの活用幅が拡大しています。
オルタナティブデータとトラディショナルデータの違い
トラディショナルデータの代表例には、各省庁から発表される経済指標(GDP、国勢調査、商業動態統計、家計調査などの統計データ)や企業による決算・財務情報などがあげられます。
オルタナティブデータと比較すると、以下のような点で違いが見えてきます。
■形式
公的な意義の強いトラディショナルデータには形式が決まっているものが多い一方、オルタナティブデータは民間企業が事業活動を通して提供する場合が多いため、データ内容は企業独自の強みが生かされた固有性の強い、不定形データとなる傾向です。
■カバー領域(データホルダーの多様性)
オルタナティブデータは、さまざまなデータホルダーにより提供されているため、データ取得方法も多様です。そのため、アンケート調査や財務情報が主軸となるトラディショナルデータがカバーしていない領域のデータも多く存在しています。例えばクレジットカードデータを活用することで、経済産業省の商業動態統計調査では把握できないECの消費動向が調査可能になるなど、トラディショナルデータとは補完関係にあるともいえます。
■速報性 / 頻度
トラディショナルデータは調査・集計から発表までに数ヶ月のタイムラグが発生することもあり、そのため公開頻度も数ヶ月から数年に1度のペースとなる傾向です。一方、オルタナティブデータは種類によっては日次でダッシュボード公開されているものや、WEBスクレイピングやSNSデータ解析の技術により、即時データ取得可能なものもあります。
目まぐるしく変化する社会においては、いち早く状況を把握することが重要となるため、速報性/頻度に優位性のあるオルタナティブデータは、コロナ禍で特に重宝されることになりました。
■粒度
トラディショナルデータとオルタナティブデータは粒度が異なります。トラディショナルデータはマクロな動きを捉えるデータ、オルタナティブデータはより粒度が細かく局所的なものとなる傾向です。たとえば、国勢調査で日本全国の人口統計を、オルタナティブデータでより細かいエリア内移動や、日別の人流を分析することが可能です。
オルタナティブデータを活用するメリット
オルタナティブデータは、特に速報性と頻度に優位性を持っています。意思決定がスピーディーになり、鮮度を活かした分析を実施することができます。
また、民間企業を主なデータホルダーとして、さまざまな種類と粒度のデータが提供されており、自社ニーズに即した適切なデータを活用できるというメリットもあります。
出典:オルタナティブデータFACTBOOK(一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会)
一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会の調査では「既存データとの補完性」(全体、38%)にメリットを感じているという回答が得られました。
トラディショナルデータやその他自社が保有するデータと、オルタナティブデータの特性を理解した上で組み合わせ、使い分けることでデータ分析の精度やスピードを高めることが可能となるでしょう。
オルタナティブデータ活用の課題
世界的に活用が進んでいるオルタナティブデータですが、日本においては、以下のような課題がまだまだあります。
・活用され始めて日が浅いため、成功事例が少ない
・データ活用できる人材が少ない
・データ購入や環境構築にかかるコスト
・法規制や枠組みの整備が不十分
・データの利用に関するコンプライアンスへの不安
・データ自体の正確性・信用度
しかし、これらの課題を業界で一丸となって解決すべく前述の「一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会」が立ち上がり、金融機関やデータプロバイダー、データ分析企業など多くの参加者が活動事例や課題の共有を行うなど、オルタナティブデータ利活用に向けた土台が作られはじめています。
オルタナティブデータの市場はどう変化しているのか
オルタナティブデータの活用は欧米の金融業界を中心に始まりました。金融業界では主にトラディショナルデータを用いて投資判断がなされていましたが、新たな情報源としてオルタナティブデータへの関心が高まり活用が進んでいます。
参考:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49867800X10C19A9000000/
出典:AlternativeData.org
AlternativeData.orgの調査によれば、グローバルで市場規模において、オルタナティブデータの購入予算は2020年時点で約17億ドル(約1,800億円)を超えると推計されています。
出典:AlternativeData.org
また、データプロバイダーも2018年に400社を超えるまでに急増しているとの試算されています。
オルタナティブデータの種類について
活用が進むオルタナティブデータについて、具体的にどのような種類のデータがあるか解説します。
■POSデータ
POSデータは、スーパーやコンビニエンスストアなど、小売店のレジなどでの購買記録を集めたものを指します。POSデータを活用すれば、各メーカーの競争力を知る貴重な手がかりが得られます。POSデータにより、どの商品がいつ、どの店舗でいくつ売れたかを示す具体例な情報が取得可能です。またポイントカードの発行などにより、顧客情報と紐づけることで購入者の性別や年齢層も把握することができます。
■クレジットカードの利用情報
クレジットカードの購買履歴からは「どこで、誰が」購入したかが分かります。ECサイトやエンタメ施設での消費も含めて、消費トレンドを把握できるのが特長です。
■SNSデータ
TwitterやInstagramなど、SNSの投稿からテキストや特定のキーワードなどを解析すれば、口コミやユーザーのニーズを細かく分析できます。例えば、ツイート数やネガティブ・ポジティブな投稿数、コメント数などを比較することで、新商品の人気動向を把握する方法があります。
■人流データ
GPSやビーコン等の技術で取得可能な(多くはスマートフォンの)位置情報から人流データを蓄積することができます。人流データを解析することで、繁華街や主要駅など多くの人が集まる特定の場所の人出予想も可能です。また、エリア内の人の動きを掴むことで、インフラ整備や商圏調査、購買動向予測にも役立てることもできます。
■ニュース記事
ニュース記事の見出しや本文、キーワードなどのテキスト情報を分析します。本文だけでなく、ニュース記事に書かれた企業名や人物名、掲載された媒体や日付も分析の対象です。多くの文字やキーワードから分析を行うことで、日本の経済動向や特定企業の話題性などを素早く把握できます。
■Webサイトのトラフィック
Webサイトのトラフィックからは、アクセス数や滞在時間、サイト内での行動履歴などのデータだけでなく、来訪者の年齢や性別、職業なども推定可能です。これにより、どういった属性の人がどのタイミングで情報に興味を持つのかを分析できるため、業績動向やサイトの人気度が計れます。
その他以下のようなさまざまなデータも一例となります。
・Webスクレイピング
・レシートデータ
・ポイントカードデータ
・TVメタデータ
・スマートフォンアプリの利用状況、ログ
・気象データ
・衛星画像データ
・求人情報
・車両のプローブデータ
・船舶データ
・調査会社による独自サーベイ
※購入者/データプロバイダー/データ受託者が回答
出典:オルタナティブデータFACTBOOK(一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会)
オルタナティブデータの活用方法
オルタナティブデータの活用はまだ始まったばかりです。ここでは具体的な活用例を5つ紹介します。
■POSデータを活用した企業の売上予想
POSデータにある、日時別にどの商品をどのくらい売り上げているかの情報を活用すれば、購買状況の把握や、今後の売上予想につながります。購買動向からは、販売する企業の競争力や収益性も細かく把握できます。従来は消費者物価指数や、企業が出す決算情報などからしか予測ができなかったものも、POSデータの活用により、素早く正確なデータ予測が可能になりました。
■クレジットカードデータからリアルタイム消費統計の補完
クレジットカードデータを消費統計にリアルタイムで補完すれば、より粒度の細かい消費統計を算出できます。トラディショナルデータにおける商業動態統計や家計調査などの消費統計は速報性が低く、細かい消費実態を捉えるのには不向きでした。オルタナティブデータを活用すれば、小売店での購入だけでなく、ECサイトでの購入やサービスへの対価支払いの速報値も把握できます。
■WebサイトのトラフィックやSNSデータからトレンドの把握
Webサイトのデータ量やWebへのアクセス数、SNS上のインフルエンサーの発言や投稿を拾うことで、トレンドの把握が可能です。把握したデータは、今後の既存商品の販売戦略や販売促進、新規の製品の企画やキャンペーンといったマーケティング施策にも活用することできます。
■テキストデータを活用した銘柄や関連企業の分析
投資家にとって、四半期決算などのトラディショナルデータは信頼性が高い半面、開示までタイムラグがありました。プレスリリースや速報記事のテキストデータを活用すれば、特定企業への世間の関心を掴んだり、想定外の情報を素早く把握可能です。これにより、より精度の高い株価予想が可能です。
■GPSなど位置情報を活用した人流把握
GPSやビーコンで取得した位置情報から、人の移動がどのように変化しているか、どこに人が集中しているかなどの細かいデータの取得が可能です。人流データにより、どれくらい外出しているか把握することで、たとえば小売り・アミューズメント・宿泊といった業種では、コロナ禍からの回復度合いを測ることもできます。また、人流データと決算データを確認することで、多面的に業界や企業の動向を判断することも可能になります。
まとめ
データの質量ともに向上が見込まれるオルタナティブデータは今後もさらなる市場成長が期待されます。
定型データが定期的に一般公開されるたトラディショナルデータと異なり、オルタナティブデータはさまざまな種類、粒度のデータが存在しています。そのため、活用にあたっては、全てのプレイヤーが共通のオルタナティブデータを参照するのではなく、各々の目的に沿って取り扱うべきデータも変わっていくでしょう。
自社にとって最適なデータを発見し、既存データとも組み合わせながら、いかに精度高い分析を実施できるかどうかがオルタナティブデータ活用の鍵となるのではないでしょうか。
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