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〜中心市街地の移動と賑わいを「見える化」〜 「ウォーカブルなまちづくり」への挑戦 徒歩移動の限界点“600m”を突破せよ!

〜中心市街地の移動と賑わいを「見える化」〜 「ウォーカブルなまちづくり」への挑戦 徒歩移動の限界点“600m”を突破せよ!

富山市

2023.11.22

KEYWORDS

  • #エリア分析
  • #スマートシティ
  • #人流分析
  • #観光DX
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富山市は富山県のほぼ中央から南東部分までに位置する約1,200k㎡、人口約41万人の都市です。水深約1,200mにも及び豊富な魚介類を育む富山湾から、3,000m級の山々が連なる北アルプス立山連峰までが約30km内のエリアに併存するなど、起伏の激しい非常にダイナミックな自然景観は、訪れる人々を魅了します。また都市部では日本初の本格的LRT(Light Rail Transit:次世代型路面電車)である「富山ライトレール」が市民生活の足として活躍しており、温室効果ガス排出削減に資するLRTは「環境モデル都市」である同市の象徴的存在にもなっています。

富山市<立山連峰を臨む特等席>

「ウォーカブルなまちづくり」に重点

富山市では、多様化する住民のライフスタイルへの対応に向けて公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり「お団子と串の都市構造」を基本方針とし、
の3本柱「公共交通の活性化」「公共交通沿線地区への居住誘導」「中心市街地の活性化」を展開しています。
また同市では高齢社会への対応や脱炭素に向けた取組みとして中央市街地における「ウォーカブルなまちづくり」に重点を置き、「富山市歩くライフスタイル戦略」を策定。都市アセットの活用や主要導線へのベンチ設置、歩くことを楽しめるイベントの実施といった街中の回遊性向上を図る施策を展開し、自動車に依存した生活から歩くライフスタイルへの転換を促しています。

富山市ではコンパクトシティ戦略の深化に向け、令和2年度より「移動の見える化」と「移動手段の解析」を継続的に実施しています。本記事では、unerryとの取組みの中で浮かび上がった富山市中心市街地における徒歩移動の実態評価と見えてきた課題について解説します(Report1)。また、令和4年度に実施された都市型フェスティバル『MACHI MEGRI』を対象として課題解決の検証およびイベントの賑わい評価の分析結果(Report2)をご紹介します。

取材にご協力いただいたのは、富山市役所 活力都市創造部 まちづくり推進課 中心市街地活性化推進係 課長代理 佐伯哲弥様です。

※本ページは、unerryがpublic dots & Company社とともに支援した、環境省「令和3年度 移動データを活用した地域の脱炭素化施策検討業務〜データ駆動型脱炭素まちづくり〜」および「令和4年度人流データを活用した脱炭素まちづくりのための支援ツール(脱炭素まちづくりダッシュボード)(仮称)作成に係る調査検討委託業務」における富山市への支援内容から一部を抜粋してご紹介しています。

<この記事のポイント>
● 交通手段別分析で市民の“歩く”行動を可視化し、ステークホルダーと共有
● 来訪人数だけでなく、滞在時間ふまえた「イベントの賑わい」が評価可能に
● 人流データ×街のデータを立体的に分析し、「課題設定そのものの精度を上げていきたい」

【Report1】中心市街地への来訪者は、到着地点から「600m付近」を境に徒歩移動が大きく減少していた

中心市街地における2大集客エリアである富山駅前と「グランドプラザ」間の徒歩での回遊を増やすことをテーマ(「中心地の活性化」と「ウォーカブルな街づくり」)に掲げる中、令和3年度に実施した人流データによる検証調査では、徒歩移動の限界点=“600mの壁”が存在することが顕在化しました。

「富山駅前」「グランドプラザ」に車で訪れた人を対象に、来訪後にどの程度の距離を徒歩移動しているかを調査した結果です。600m付近を境に徒歩移動が大きく減少していることが分かります。地図上で可視化したところ、松川周辺の市役所・県庁、城址公園・桜木町エリアがちょうど富山駅・グランドプラザの両方から500~600m地点となっていることが分かり、このエリアの回遊性を高めることが南北の徒歩回遊の促進に繋がることが示唆されました。


 

またスポット来訪後の移動交通手段の距離別分析でも、徒歩割合は500~600mで減少することが明らかとなっています。

 

本調査では、unerryの「Beacon Bank」と連携するスマートフォンアプリを利用するユーザーにおける利用許諾済のGPSデータを活用しています。データソースより抽出した条件数等は以下の通りです。
対象期間:2021年5月~9月 / 抽出人数: 車での中心市街地来訪者数 来訪人数(ユニーク) 18,552人 のべ来訪人数:137,247人


unerryの人流データ解析で浮き彫りになった”600mの壁”。
富山中心市街地内広域で開催された都市型フェスティバル『MACHI MEGRI』では、賑わいの創出に加えて、日常以上に徒歩で街を楽しむことが期待されていました。果たして、その実態は!?

【Report2】『MACHI MEGRI』イベント中は徒歩移動の距離が増加 賑わい指数は普段の週末よりも1.5倍程度、増加した

『MACHI MEGRI』とは?

『MACHI MEGRI』は令和4年10月31日〜11月6日に富山市で開催された、まちなかをめぐる都市型フェスティバルです。富山駅、グランドプラザ、環水公園、城址公園といった富山市中心市街地における賑わいの拠点となるスポットでトークイベントやマルシェ、音楽ライブなど、さまざまなイベントが行われました。

”600mの壁”は『MACHI MEGRI』においてどの程度解消されたのでしょうか?スポット来訪後の移動距離別の交通手段割合を見ると、「富山駅周辺」への来訪者は普段の週末と比較してどの距離帯においても徒歩割合が増えています。また「グランドプラザ」の来訪者は、「〜600m」で普段32%程度が徒歩割合であるのに対し、イベント時には49%以上が徒歩になっているなど、普段よりも歩いて移動する範囲が広がっていることがわかります。1,000m以上の徒歩移動も増加していました。

来訪人数で表現しにくい「賑わい」は滞在時間で可視化。来場者の居住地や回遊状況も明らかになり、次年度以降の方策のエビデンスに

「賑わい」の可視化 (ヒートマップ)

市街地の人流をヒートマップで可視化し、特に人が増加した(賑わった)スポットを分析。赤色ほどより多くの人の移動を示しており、普段の週末と比較して 『MACHI MEGRI』 期間中は駅周辺、城址大通り、グランドプラザ周辺の反応が顕著です。



賑わい指数(総滞在時間)

中心市街地への来訪人数と併せて各スポットの賑わいを表す指標として総滞在時間も分析しました。来訪者の総滞在時間を普段の週末の平均を1とすると『MACHI MEGRI』 では1.5倍程度またはそれ以上の増加が見られます。



居住地分布/居住地ランキング

イベントに訪れた人の居住地推定を行ったところ 『MACHI MEGRI』 は高岡市、射水市など隣接市からの来訪が多く見られました。一方、県外からの流入は目立ちませんでした。



主要スポット間の回遊率

イベント主要スポット間の移動を回遊率(基準地点来訪者のうち、同日に比較地点を訪れている人の割合)で可視化。普段の週末と比較してグランドプラザ周辺への回遊が増加。また環水公園からの回遊傾向にも増加が見られました。



 

本調査では、普段の週末の状況と比較することで、「MACHI MEGRI」のイベント評価を検証しました。各所での本格的なイベント開催は11月3日であることを考慮し、11月3日〜11月6日を調査対象期間としています。比較対象となる「普段の週末」は2022年9月1日〜11月13日の間の土日(連休・雨の日を除く)としました。

INTERVIEW

歩行者交通量では困難だった、徒歩移動距離と「賑わいの質」を評価可能に。報告会ではステークホルダーの関心の高さを実感した。

富山市役所 活力都市創造部 まちづくり推進課 中心市街地活性化推進係 課長代理 佐伯哲弥様

――「まちづくり」にあたり、本取組みの前に感じていた課題はありましたか?

富山ライトレール

富山市は平成19年2月に国から「中心市街地活性化基本計画」の第一号認定受け、これまで「公共交通の利便性向上」、「賑わい拠点の創出」、「まちなか居住の推進」の三本柱を中心とした政策に取組んでおり、現在はコンパクトシティの更なる深化に向け第4期目の計画を遂行中です。これまでも施策実行と効果検証は行なってきましたが、検証手法は人がカウントする歩行者通行量調査が主でした。そのため各地点の通行量は把握できても、どこから来て、どのルートを辿りどこまで歩いているか、という移動に関する検証ができていないという状況でした。また、歩行者通行量からは、同じ場所にどれくらい滞留しているのか?という点も把握できません。人々がただ通り過ぎるのではなく、街中に留まるということは、買い物をしているとか、公園で家族と遊んでいるとか、何らかの経済活動など質の高い時間を過ごしていると想像されます。頭数だけではそうした「賑わいの質」の評価ができないと感じていました。

――今回の取り組みを通して、どんなことが得られましたか?

サクラセントラム

集客を目的とした賑わい創出に関する事業は、実行して終わりというケースが多いのも実情です。しかし今回は運営側の狙いに対して、移動距離やその手段、滞留も含めてどれ程の効果があったのかが明らかになり、次回に向けての具体的な方策のヒントを得られました。『MACHI MEGRI』は広いエリアの中に数多くのイベントを点在させる形で開催しました。“600mの壁”解消には効果が見られましたが、イベントスペース間の回遊にはさらに改善の余地があると感じられました。イベント数を充実させるだけでなく、簡単にイベントスペース間を移動できる仕組みやイベント同士に繋がりあるストーリーを持たせることができれば、各会場を移動しながら楽しんでいただけるなど、街全体をイベント会場としたスケール感のあるイベントにできるのではないかと考えました。

私自身の経験という点でも本取組みはとても貴重な機会でした。unerryのご担当者と本件をご一緒する中、たとえばそのデータは絶対的な視点で見るべきなのか、それとも相対的に考えるべきなのかという視点の違いや、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)のノウハウを学ぶことができました。富山市ではコンパクトシティの実現を目指す中、データ活用にも力を入れていきたいと考えています。しかし、実際にはデジタル人材の不足が課題です。行政マンとして、データを扱う経験やノウハウを得られる機会は大変価値があり、今後も施策に還元していかなくてはと思いました。

スマートフォンアプリ「とほ活」

――検証レポートは、どのように活用されましたか?

今回の検証結果については、青年会議所のメンバー約200人の前で報告会を実施しました。みなさん非常に興味をもってくださって、質問はたくさんあがり、その後の発展的な議論にも繋がったと思います。レポートの一部は地元新聞紙にも掲載されており、市民も含めてこの分野への関心の高さを感じました。

――今後、佐伯様がデータ活用でやってみたいことを教えてください。

富山市が描く次の20年のためには、街を常に分析可能な状況にしておくことが重要だと考えています。人流データと地価、業種・出店数、売上など、さまざまなデータを重ね合わせ、中心市街地への投資効果や賑わいの質について検証してみたいです。

また今回の取組みから、課題を立体的に捉える重要性に気づきました。データを通じて全体を俯瞰し、さまざまな視点、角度で街の状況を分析することで、目の前にある課題に対する断片的な方策だけにならないようにすること。課題設定そのものの精度を上げ、政策の方向性を誤らせないことが何より重要だと感じています。人流データや公共交通機関の乗客数、歩くことや公共交通の利用でポイントがたまるスマートフォンアプリ「とほ活」の歩数データなど、街のデータの蓄積は進んでいるので、それらを組み合わせ立体的な分析を実施できればと思います。

[取材日] 2023年9月26日 ※記載内容は取材当時のものです。

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