レポート
2025.02.05
うねりの泉編集部
アジリティ高くプロダクトのシーズを作ってみようとしたら色々わかった話 / pmconf 2024 レポート
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「pmconf 2024(プロダクトマネージャーカンファレンス)」はプロダクトマネジメントに携わる人たちが共に学び、切磋琢磨する場です。本記事は2024年12月5日開催のオンラインセッションにてunerry渡邊が登壇した「アジリティ高くプロダクトのシーズを作ってみようとしたら色々わかった話」を書き起こし風にレポートします。(実際の発言から編集を加えています)
「アジリティ」(Agility)とは:
目まぐるしい状況変化に応じて迅速に対応できる組織や個人の機敏さ、素早さ。意思決定のスピードや効率、フレキシブルなチーム編成などを含む概念で、不確実な時代において重要視されるキーワードです!
INDEX
登壇者:
◼︎セッションについて
本日はよろしくお願いいたします。unerryでプロダクトマネージャーをしている渡邊です。
unerryは、人流ビッグデータ(スマートフォンの位置情報)を保有するデータカンパニーです。約4.2億ID、月間840億件以上のログを蓄積し、この膨大なデータをAI解析することでリテールやスマートシティ領域など多様な分野に日々挑戦しています。
そんなunerryにおいて「まずやってみよう!」の精神でさまざまな試行錯誤を続ける中、プロダクトの成長過程や開発における気づきを得ることができました。
本日は、その中で得た知見を皆さんに共有できればと思います。皆さんご存知の「イノベーター理論」を軸に主に以下のテーマでお話いたします。
・イノベーター層をどう巻き込むのか?
・アーリーアダプター層へのアプローチとは何が違うのか?
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全体の流れはこんな感じです。
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◼︎unerryってこんな会社
unerryの説明をする前に、「そもそも人流データに馴染みがない」方がほとんどだと思うので、まずはアニメーションでイメージをつかんでいただければと思います。
この動画では東京都心部の人流を可視化しました。24時間を1分くらいで一連の流れを見せています。青が車移動でオレンジが徒歩移動を表しており、時間帯による変化が見て取れます。
unerryの主な事業はこうした人流ビッグデータを基盤に、購買データやウェブアクセスログといった多様なデータを組み合わせ、リアル空間とデジタル空間をつなぐソリューションをご提供することです。
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たとえば小売業界では「来店している方がどんな属性なのか」「どの商圏をカバーできているのか」「競合に取られている地域はどこか」といった情報を人流データから明らかにし、マーケティング活動をサポートしています。EC比率は高まっているとはいえ、日本においては消費の9割以上が「リアル購買」。とりわけ実店舗を持つ業界にとってリアル世界のデータは貴重です。
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また事業基盤となるのは「Beacon Bank」というプラットフォームです。「電気・ガス・水道」に続くインフラとして、世の中にとって、なくてはならない存在となることを目指しています。
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「Beacon Bank」を基盤にさまざまなソリューション開発が行われていますが、主に①分析・可視化 ②行動変容 ③One to Oneソリューションにそれぞれ位置付けています。
今回取り上げるプロダクトは、①分析・可視化 「Beacon Bank 来店・購買計測」に位置付けられます。
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「Beacon Bank 来店・購買計測」は、テレビCMやOOH(屋外広告)、デジタル広告などのあらゆるメディアが来店や購買にどれほど貢献したかを計測するソリューションです。
本日はその中でもウェブサイト閲覧者の店舗来店率を計測する「Beacon Bank 来店計測 for WEB」にフォーカスしてお話します。
◼︎シーズからプロダクトができるまで
「Beacon Bank 来店計測 for WEB」開発に至った経緯は、①市場・顧客 ②自社 ③競合のいわゆる3C分析で説明できます。
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まずは市場・顧客。WEBサイトのKPIはクリック率や離脱率などオンライン上で設定されていることが多いのですが、たとえば小売業界においてはオフライン購買が多いので、オンライン上のコンバージョンだけを見ても、KGIである売上とは遠いためにメディアの効果をきちんと評価できていない、とった課題感がありました。
次に自社。「Beacon Bank 来店計測 for WEB」は2023年12月リリースの比較的新しいサービスですが、それまでには既にテレビCM、OHH、デジタル広告やLINE公式アカウントといったメディアの来店・購買計測は実現していました。「電気・ガス・水道」に次ぐインフラを目指すのならば、WEBサイトの計測ができないなんて、お話になりません。
そして競合。自社調べですが、unerryと同規模のデータボリュームを持つ競合プロダクトが少なくとも当時は存在していなさそうでした。
こうした考えを経て、まずは機能ベースで「version1」を構築しました。
多くのケースでは「まずデータを数か月分集めて、それからモノづくりを始めよう!」となるかと思います。しかし、unerryでは4.2億IDの人流ビッグデータ基盤という強みがあるので、「データが既にあるので、モノを作ってみよう!」というスピーディな意思決定ができます。データ収集のステップをスキップでき、1ヶ月ほどで「version1」は完成しました。
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Google CloudのBIツール「Looker studio」を活用したことで権限管理も簡単です。
数字の部分はマスキングしていますが、「URLごとの来店状況」をダッシュボードで見せています。分析対象のページを閲覧した人のうち何%が実際に来店したかを数値化しています。
早速、関係性の深いお客様にご案内し、実用性についてディスカッションしました。機能や使い勝手に関するご意見だけでなく、「自社の持っているデータと掛け合わせてみた」「こんな分析をやってみた」とプロダクトのさらなる進化につながるヒントも頂戴できました。
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ユーザーヒアリングを通じた改善は順調に進み、他の数社様にも使っていただけることになりました。しかし、この先には新たな課題がありました…。
◼︎拡販していくためのあれこれ
ご提案先が広がる中、面白がってはもらえるもののすぐには受注に繋がらないケースが増えていきました。
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なぜ一筋縄ではいかないのか?
これは「イノベーター理論」で説明できると思い至りました。プロダクトを拡販する中で、「イノベーター層」と「アーリーアダプター層」の違いに直面したのです。
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最初にご意見をいただいたお客様は、普段の取り組みからも新しい製品を積極的に採用する「イノベーター」の特徴に当てはまっていました。機能をご説明するだけで自由にイメージを膨らませ、プロダクトの可能性やユースケースを自ら見つけ、価値を評価してくださいました。
一方、拡販フェーズでご提案したお客様は、「新しいもの」に積極的というよりも、具体的なメリットや投資対効果を考慮して良いと判断したものだけを購買する「アーリーアダプター」の特徴を持っていました。この層には、数字を示すだけでなく、その先の具体的なユースケースや投資対効果のイメージを明確に示さなければ、購買の意思決定につながりません。
「イノベーター層」は全体のわずか2.5%と言われています。プロダクトの拡販を進めるには、「アーリーアダプター層」にも訴求できるよう、プロダクトを改善する必要がありました。
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version1では機能ベースで構築していましたが、拡販に向けては、「誰が」「なぜ」「何を」見たいかの整理が必要です。想定される利用者とユースケースを洗い出し、機能の不足やUI/UXの改善を検討しました。
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たとえば、「マーケティング全般担当者」にとっては「Webサイトを見ている人はそもそもどういう人なのか」を知りたいニーズがあると考えました。そして、その行動特性を知るために「自社/来店来訪状況」だけでなく食や生活スタイルなど「日常的な行動嗜好性(unerryでは「行動DNA」と呼んでいます)」を掘り下げて分析できればより価値の高い情報を提供できます。
UI/UXではこんな改善を行いました。
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Version1では、機能(メニュー)が羅列されているだけで、何ができるのかが直感的に分かりにくい状態でした。見た目もただの表のようで、ダッシュボードらしさがありません…。
Version1のメニュー表示:
・「日ごと来店状況」
・「URLごと来店状況」
・「店舗ごと来店状況」
・「パラメータごと来店状況」
Version2では、まず機能(メニュー)をグルーピングし、「誰が、何を、どういう用途で使うのか」が分かりやすくなるよう工夫しました。また、メイン画面にはサマリの数値やフィルターなど、定常的なモニタリングに適したダッシュボードらしい機能を追加しました。これにより、左脳に論理的な良さを訴えるだけでなく、右脳に感覚的な良さも訴えられるプロダクトに仕上がったと感じています。
Version2のメニュー表示:
「サマリ」
・「WEB経由比率」 エリア/店舗別比率、時系列推移
・「来店コンバージョン」 URL別、URLパラメータ別
・「WEBユーザー行動特性」 来訪業態・チェーン、行動DNA
◼︎プロダクトの現状とこれから
今後は、2つの方向性に伸びしろを感じつつも、まだ悩んでいるところです。
営業コストを抑えるためには「PLG」を推進することが必要ですが、一方で高度で複合的な施策を組み合わせる場合には、お客様のニーズに合わせたカスタマイズが価値の源泉となります。そのため、必然的に「SLG」のアプローチが求められる場面が増えると考えています。
PLG(Product-Led Growth): 製品そのものが営業の役割を担い、スケーラブルな成長を目指すモデル。フリーミアムモデルや無料トライアルを通じてユーザーが製品を自発的に試し、その使いやすさや価値を実感することで購買に繋がります。
SLG(Sales-Led Growth): 営業チームが主導し、顧客との直接的なやり取りや提案を通じてプロダクトを販売するモデル。特に複雑な製品や大規模な顧客を対象に、関係構築を重視しながら長期的な取引を目指します。
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◼︎まとめ
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アジリティを活かして試行錯誤を重ねることで、プロダクトの成長サイクルもフィードバックのスピードも非常に速くなります。たとえば、version1のダッシュボード化には1ヶ月、version2ではさらに3ヶ月をかけ、のべ4ヶ月でここまで進んだのは、他ではなかなか実現できないスピード感だと考えています。
「イノベーター理論」を踏まえると、市場からの認知状況を客観的に理解することが大前提となります。「イノベーター層」のお客様とは、深い関係性を構築し、プロダクト開発の初期段階から巻き込むことで、一緒に価値を作り上げることが理想的です。社内でのみ考えると、機能ベースにとらわれ視野が狭くなることがありますが、外部からのフィードバックを得ることでその課題を克服できます。
一方で、「アーリーアダプター層」に向けては、役割やユースケースを深く理解し、それに基づいてプロダクトを整理することが不可欠です。その上で、具体的なメリットや投資対効果を明確に示すことができれば、次のステップへ進む可能性が高まるはずです。
◼︎登壇者の渡邊よりunerryに興味のある方へ一言
ここまでお読みになっていただき、ありがとうございました。
ビジネス書などでよく語られる理論について、読んだときにはそれらしい知識がついたように思うものの、実務では役立たず、1か月経つとほとんどすべて忘れている、ということはよくあると思います。
要はインプットが過多で、アウトプットが伴っていないからだと考えています。今回は、爆速で大量にアウトプットをした結果、過去にしたインプットと結びつき、学びが机上だけのものではなく、ネクストアクションに繋がりました。
私自身、転職経験がありますが、これまでの環境と比較してunerryに対してよく感じるのは、「密度の濃さ」です。それは、unerryが
・トップダウンで色々決まるわけではなく、各社員がスピーディに意思決定をする民主的な会社
・理論だけではなく実態と結果が伴っており、「unerry, everywhere」に近づきつつある夢のある会社
であるがゆえに、色々なことを自分で決められるからだと思います。また、「人の行動」という誰しも実感のある領域を主としているからこそ、手触り感が強くて、フィードバックが得やすいこともあります。
自分の仕事が世の中に与える影響の手触り感がほしい方、自分の力が会社の外に出ても通用するのかを試してみたい方、メキメキと成長する実感を得たい方。ご一緒できることを楽しみにしています。
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