昨今、「まちづくり」や「スマートシティ」のキーワードとする人流データ活用のニーズが高まっています。なぜ今なのか?そして、実際に人流データの分析からまちのどんなことが分かり、どんな貢献ができるのでしょうか。
unerryでスマートシティ事業の開発に取り組んでいる、2人に聞いてみました。
INDEX
登場人物
株式会社unerry 取締役副社長COO 鈴木 茂二郎(すずき しげじろう)
入社日:2018年9月
好きなお菓子:歌舞伎揚げ
1999年アクセンチュア入社。通信、金融、次世代自動車分野を専門領域とするコンサルティングに15年以上従事。unerryには創業直後から参画、2018年取締役COOに就任。各省庁と連携したデータ駆動型のまちづくりなど、地域発展に資する先進的取り組みを牽引。
株式会社unerry スマートシティ事業開発 小坂英智(こさか えいち)
入社日:2023年4月
好きな料理:豚汁
スマートシティ領域の事業開発を担当。1992年埼玉生まれ、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修了。前職は関東の私鉄系グループで、DX・マーケティング戦略の策定や鉄道沿線地域の価値向上施策(MaaS・まちづくり等)を担当。unerryに参画後は、街づくり・モビリティ領域でのデータ利活用案件を推進。
「EBPM」に必要不可欠な人流データ 行政での活用シーンが増加
Q.「まちづくり」の分野で、人流データの活用が増えています。その背景をどう考えていますか?
鈴木:コロナ禍をきっかけに、人流データの存在やそのケイパビリティが広く認知されるようになったことが最大の契機だと思います。「人流」という言葉が2021年の流行語に選ばれたのを覚えている方も多いのではないでしょうか?
また同時に「EBPM(エビデンス・ベースド・ポリシーメイキング)」という考え方が自治体に浸透してきたことも影響していると思います。「EBPM」は、簡単に言えば、データや合理的な根拠に基づいて政策を立案するアプローチであり、その実現に向けて、人流データをはじめとするビッグデータの活用が期待されています。
さらに、各地域の事例が共有される中で、人流データが「まちづくり」にとって不可欠な要素であるという認識が広がり、その結果、様々な用途での活用が拡がっていると考えています。
月間840億件ログを蓄積する「Beacon Bank」の成長 とリテール事業のノウハウを「まちづくり」に
Q.unerryが「スマートシティ事業」に力を入れる背景についても教えてください。
鈴木:私自身は、参画直後から「地方創生」のテーマでまちづくり領域に長く関わってきました。日本を元気にするには既存のインフラに何かをプラスしていく必要があり、「人流データこそが、地域課題を解決する新たな機運を呼び起こすのだ」という想いを持って取組んできました。
ただ、unerryのビジネスの柱として「スマートシティ事業」が明確に位置づけられるようになったのは、もう少し後のことです。2017年当時は、「人流データ」という言葉すらない状況だったこともあり、「地方発」で新しい取り組みを進めるには会社の体力も不足していました。
しかし、会社の規模や当社が持つデータ量が増大し、カバー範囲も急拡大。そして、主力である「リテール事業」において商圏や来店者の理解を深め、それに基づいて人々の行動を変化させていくためのノウハウが培われました。
プラットフォームの成長と、「リテール事業」で得たノウハウの2つが揃ったことで、「スマートシティ」領域にも本格的に事業を広げることができました。これは、私たちが掲げるビジョン「unerry, everywhere」の一つの具体的な展開でもありますね。
そして2023年4月には小坂さんが入社し、取り組みはさらに加速しています。
Q.unerryのスマートシティチームでは、どんな仕事をしているのでしょうか?
鈴木:「官」の領域では、省庁や自治体による公募案件への対応が主となりますが、一歩踏み込んで、案件化そのものに働きかけることも重要な仕事です。
たとえば自治体担当者は、「まちづくり」に対して強い思いをお持ちですが、技術については深くご存知ありません。「unerryの技術ならこんな方法も可能です!」とこちらから新しい選択肢を提案することで、今までにない日本最先端の取組みに繋がるかもしれません。
小坂:モビリティ、防災、観光といったユースケースで人流データの有効性を示し、都市サービスにおけるさまざまなシーンでunerryの存在感を高めていくことは、チームの戦略の一つです。
私の場合は、鉄道会社出身ということもあって、特にモビリティのテーマを推進しています。オンデマンドバスやキックボードなどを活用した二次交通の最適化など、新しいモビリティサービスを、人流データを使ってどう街に組み込んでいけるのか、といった点で価値検証に取り組んでいます。
課題ドリブンで人流データに新しい解釈を与える 光り輝く 「指標」の開発と発見
Q.「まちづくり」の分野で人流データを使うと、どんな分析が可能になりますか?
鈴木:人流データの分析では、課題に応じたさまざまなアウトプットが可能ですが、「まちづくり」の場面では、エリアや施設などスポットへの立ち寄り前後の行動(同日行動)や移動手段のデータは特に価値が高いと感じます。
自治体のご担当者からも、「これは今まで分からなかった」といったコメントをよくいただきますね。
▼unerryが提供する分析パターンの一例▼
これらの図は基本パターンの一例を示していますが、一方で、「指標」の発見と開発にも特にこの1年ではチャレンジしています。
データはそれだけでは意味を持たず、新しい解釈を与えてこそ価値が生まれます。課題ドリブンの脳みそを持ち、どのデータにフォーカスし、どう指標化するかが結構な肝となるのです。
たとえば、イベントの盛り上がりを示す「賑わい指数」はイベント来場者の滞在時間まで捉えるunerryの人流データならではの新しい指標ですね。
テーマによって異なる視点が必要ですが、少しずつ手応えを感じているところです。
▼「賑わい指数」を活用した富山市の事例▼
小坂:いかに、光り輝く「指標」を見つけるかは重要で、ここはとても面白い部分だと思います。
オフィス街のビルのテナントにどんなお店を入れるべきかを考えるデベロッパーであれば、そのエリアのオフィスワーカーのボリュームと、昼間や夜の時間帯での回遊状況を可視化・定量化をしたいと思います。土休日のニーズを考えるのであれば周辺500mのワーカー以外の来街者・居住者のボリューム、回遊状況が重要です。そうやっていろんな視点で考えていくうちに、キーファクトが何であるかが見えてきます。
無数の解釈が生まれる人流データを分析し、どこに焦点をあてるのか。分析者のセンスを問われる部分ではありますが、型としてunerryの中に蓄積していくはずですし、クライアントとの会話を通して気づくこともたくさんあります。
また、これには大規模データが必要ですが、unerryのデータは、さまざまなアプローチを可能にする、目的に迫れるデータセットです。
タイムリーな分析で個別施策が評価可能に 情報配信との二刀流で成果を導く
Q.人流データは、「まちづくり」の分野で具体的にどう役立つのでしょうか?
鈴木:unerryの人流データは可視化だけでなく、人の行動を変えるための情報配信(Beacon Bank AD)の仕組みにも活かせます。分析と情報配信という2つの武器を組み合わせることで、あらゆるシチュエーションに活かすことができます。
たとえば防災減災の分野。突然の震災や津波の際に、命を守る正しい避難行動がとれるかは非常に重要です。震災発生時の人流データを分析することで、人々は実際にいつ、どこに、どんな移動手段で避難したのかを可視化できます。避難計画の立案や見直しにこれらのデータを役立て、避難誘導の情報配信にも貢献できるかもしれません。
また「EBPM」の考え方にも繋がりますが、自治体や企業が「まちづくり」に向き合う際に課題となっているのは、「まちの状態や各種取り組みを評価する指標がない」ということです。市民のQOL向上を目標を掲げ、何かしらの活性化施策を実施したとしても、その効果を個別に測るのは非常に難しい。住民人口が増えたとか地価が上がった、といった、数年をかけたゆるやかな変化を見るしかない、ということにもなりがちです。
そこで、タイムリーな状態把握が得意なunerryの人流データが役立ちます。たとえば公共交通の利用促進施策が行われた期間、市民の外出率に変化はあったのか、変化率は期待していたほどだったか、といった評価が可能になります。地元イベントへの集客施策においては、情報を見た何%の方がイベントを訪れたのか、市内のどのエリアから、他県や他市からはどの程度の来訪があったのかといった全体像が明らかになります。
施策効果をタイムラグなく測ることができれば、次年度にもすぐ活かせるので、改善を継続的に行うことができるのです。
デジタルツインの世界観で取組みをサポート、そして「電気・ガス・水道・unerry」の実現へ
Q.今後、お二人が挑戦してみたいことを教えてください。
鈴木:今後挑戦したいことの一つは、シミュレーションです。
unerryのデータをさらに多くの場面で役立てるためには、施策の検討段階までサポートできることが重要だと感じています。
たとえば、バスの移動分析で利用状況がわかったとしても、解決策としてバスの路線を見直すべきか、本数を増やすべきか、それともバスのサイズを大きくするべきかの判断は難しい。でも、「路線を変更すれば人の流れがこう変わる」といったシミュレーションがあれば、より意思決定のハードルがさがります。
デジタルツインの世界観のように、現状と施策、そのギャップを埋めるためのシミュレーションに挑んでみたいと思っています。
小坂:私は、人流データを、まちにプリセットすることで、「データの民主化」を実現したいです。
行政サービスを提供する省庁や自治体の人、電車やバスを整備する人だけでなく、お店を開く人、まち中の空きスペースでコミュニティスペースを作る人など、非常にたくさんのプレイヤーが、「まちづくり」には関わっています。
電気やガス、水道と同じように、まちの一人ひとりがunerryのデータを、当たり前のインフラとして活用できるような基盤づくりに挑戦したいですね。
そのためにはまず、行政サービスの改善に人流データが貢献できているというユースケースを増やして、データがまちの運営に必要不可欠な存在になっていくことが大事で、今はここに取り組んでいます。
また日本の各都市が直面する課題は、海外の都市にも共通していくことだと思います。日本で培ったノウハウを、中長期的には海外でも広げていきたいですね。
unerry セールスチームは現在、仲間を募集中です
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